羽根はどこへ消えた?『大英自然史博物館珍鳥標本盗難事件』

カーク・ウォレス・ジョンソン『大英自然史博物館珍鳥標本盗難事件 なぜ美しい羽は狙われたのか』 出版社:化学同人 翻訳者:矢野真千子 原著:The Feather Thief: Beauty, Obsession, and the Natural History Heist of the Century (2018) サーモン釣りの…

異星人を弁護せよ『イリーガル・エイリアン』

ロバート・J・ソウヤー『イリーガル・エイリアン』 原著:ILLEGAL ALIEN(1997) TBSラジオ『アフター6ジャンクション』の「なにこれミステリー特集」にて、池澤春菜さんが紹介されていた一冊。初めて表紙を見た時は「大丈夫か」と心配になったものの、全く…

行きたいとこも行けないこんな世の中じゃ『太陽系観光旅行読本』

オリヴィア・コスキー&ジェイナ・グルセヴィッチ『太陽系観光旅行読本 おすすめスポット&知っておきたいサイエンス』 出版社:原書房 翻訳者:露久保由美子 原著:VACATION GUIDE TO THE SOLAR SYSTEM(2017) COVID-19が蔓延する中、とにかく苦しいのは旅…

ひとりで死ね?『令和元年のテロリズム』

磯部涼『令和元年のテロリズム』 新潮社(2021年) 本書のまえがきにもあるように、「今はいつなのか」「何年前のことなのか」を考える時、元号より西暦で示されたほうが腑に落ちることが多いだろう。令和元年は2019年5月から始まった、と調べ直したくらいで…

社会は僕らの手の中『うしろめたさの人類学』

松村圭一郎『うしろめたさの人類学』 ミシマ社(2017年) 著者の研究フィールドであるエチオピアに比べれば、日本は摩擦レスな世界である。誰かが生活に困っている?国がちゃんと保障すればいいじゃないか。そもそもちゃんと働く努力を本人はしたのか。困窮…

この複雑な世界『資本主義が嫌いな人のための経済学』

ジョセフ・ヒース『資本主義が嫌いな人のための経済学』 出版社:NTT出版 翻訳者:栗原桃代 原著:FILTHY LUCRE: Economics for People Who Hate Capitalism (2008) 資本主義はお好き?「欲望の資本主義」とか「人新世の資本主義」とか、資本主義への風当た…

使いやすさのユートピアへ『「ユーザーフレンドリー」全史』

クリフ・クアン / ロバート・ファブリカント『「ユーザーフレンドリー」全史 世界と人間を変えてきた「使いやすいモノ」の法則』 出版社:双葉社 翻訳者:尼丁千津子 原著:User Friendly: How the Hidden Rules of Design Are Changing the Way We Live, Wo…

吾輩は虎である『トラが語る中国史』

上田信『トラが語る中国史 エコロジカル・ヒストリーの可能性』 山川出版社(2002年) 来年2022年の干支であるトラは、アジア大陸に分布するネコ科最大の動物で、絶滅したものも含め9亜種が知られる。そのうちの一亜種であるアモイトラは中国華南地方に生息…

世界商品が歴史を動かす『砂糖の世界史』

川北稔『砂糖の世界史』 岩波ジュニア新書(1996年) 世界中どこでも需要があり使われる商品を世界商品と呼ぶ。16世紀以来の世界の歴史は、その時々の世界商品をどの国が握るかという競争の歴史であった。古くは銀や綿織物、そして石油や自動車などが世界商…

俺はいつまで男子でいるつもりだ問題『貴様いつまで女子でいるつもりだ問題』

ジェーン・スー『貴様いつまで女子でいるつもりだ問題』 幻冬舎(2014年) 「男の子の方がライフプランを考えないよね」という話を先日した。自分を見れば、確かにと納得するしかない。結婚する・しない、仕事する・しない、子どもをつくる・つくらないとい…

自己正当化してない?『自分の小さな「箱」から脱出する方法』

アービンジャー・インスティチュード『自分の小さな「箱」から脱出する方法 人間関係のパターンを変えれば、うまくいく!』 出版社:太田出版 原著:LEADERSHIP and SELF-DECEPTION Getting out of the Box (2000年) 「箱」とはなにか。自分の殻に閉じこもる…

幸福のデザイン『愛の本』

菅野仁『愛の本 他者との〈つながり〉を持て余すあなたへ』 ちくま文庫(2018年) 幸福とは何か。その具体性は異なるものの、個人ごとのある一定の条件を満たすことだと著者は言う。その条件とは、「自己充実をもたらす活動」および「他者との交流」である。…

人工生物への期待と恐れ『合成生物学の衝撃』

須田桃子『合成生物学の衝撃』 文藝春秋(2018年) 生命を「工学」する 本書は2つのパートに分けることができるだろう。そのひとつが生物学を工学化する営みのドラマである。 生物はDNA配列というプログラムでコードされたシステムで動いているということが…

自由のために『ふだんづかいの倫理学』

平尾昌宏『ふだんづかいの倫理学』 晶文社(2019年) 本書の冒頭は、いくつかの例題から始まる。ちょっと紹介してみよう。 1)あなたは都道府県知事。賄賂を渡すから発注してほしいと工事業者。どうする? 2)結婚をしようとした相手が重い病気に。どうす…

それでも見せびらかしたい『消費資本主義!』

ジェフリー・ミラー『消費資本主義!』 出版社:勁草書房 翻訳者:片岡宏仁 原著:Spent. Sex, Evolution and Consumer Behavior (2009) 私たちは地球でもっとも発展した知的生命体のはずだ。にもかかわらず、なぜハマーなんていう非効率なものを所有したが…

ゲノム編集がやってくる『ゲノム編集の衝撃』

NHK「ゲノム編集」取材班『ゲノム編集の衝撃 「神の領域」に迫るテクノロジー』 NHK出版(2016年) こんな報道もあったりして、いよいよゲノム編集技術と生活との接点が増えていきそうだ。そもそもゲノム編集とはなんなのか。研究が活況を示し始めた様子を追…

渇望と虚しさ『ブッチャーズ・クロッシング』

ジョン・ウィリアムズ『ブッチャーズ・クロッシング』 出版社:作品社 訳者:布施由紀子 原著:BUTCHER'S CROSSING (1960年) 1873年のアメリカ・カンザス州〜コロラド準州を舞台にした小説。架空の街・ブッチャーズ・クロッシングにやってきた若者・アンドリ…

人と機械のつきあい方『デジタルアポロ』

デビット・ミンデル『デジタルアポロ 月を目指せ 人と機械の挑戦』 出版社:東京電機大学出版局 翻訳者:石澤ありあ 原著:DIGITAL APOLLO: Human and Machine in Spaceflight (2008) 自動車のクルーズコントロールって使います?アクセルを踏まなくても設定…

麻薬カルテルの経営学『ハッパノミクス』

トム・ウェインライト『ハッパノミクス 麻薬カルテルの経済学』 出版社:みずす書房 翻訳者:千葉敏生 原著:NARCONOMICS How to Run a Drug Cartel (2016) 映画『ボーダーライン』は、アメリカとメキシコの国境の街を舞台に、麻薬カルテルの捜査を描いた作…

間をつなぐひと『おクジラさま』

佐々木芽生『おクジラさま ふたつの正義の物語』 集英社(2017年) 本書は2017年に公開されたドキュメンタリー映画を監督自身が書籍化したものである。イルカ漁をめぐり和歌山県太地町で巻き起こる対立を、「中立な」視点で捉えようとしたものである。 こと…

苦難を乗り越えて『鳥たちの旅』

樋口広芳『鳥たちの旅 渡り鳥の衛星追跡』 NHK出版(2005年) 小型計測機器を使い動物の移動や行動を計測するバイオロギング研究。本書はその最初期にあたる研究を紹介する内容と言えそうだ。 鳥の中には、年中同じ場所にとどまる「留鳥」と、季節的に移動す…

電脳じゃなくてもハックできる『つくられる偽りの記憶』

越智啓太『つくられる偽りの記憶 あなたの思い出は本物か?』 化学同人(2014年) 私が私であることの証明を記憶に求めるならば、本書が示す内容は恐ろしいと思えるだろう。 人の記憶は、あとからいくらでも歪められる。記憶は時系列に積み上がっていくもの…

もうハトから目を離せない『ハトはなぜ首を振って歩くのか』

藤田祐樹『ハトはなぜ首を振って歩くのか』 岩波書店(2015年) ハトはなぜ首を振って歩くのか。テレビやネットの豆知識としてメジャーになった感もあり、理由を知っている人も多くいるだろう。でも鳥見をしていれば、カモなんかは首を振らずに歩いているこ…

カレーライス、だあいすき『カレーライスと日本人』

森枝卓士『カレーライスと日本人』 講談社学術文庫(2015年) 私の住む札幌でカレーといえば、やはりスープカレーである。スパイスの効いたさらりとしたスープに盛りだくさんの具を浮かべ、ライスを浸して食べる。元々は薬膳をヒントに札幌で生み出されてい…

境界を揺れる『プラネタリウムの外側』

早瀬耕『プラネタリウムの外側』 ハヤカワ文庫JA(2018年) BBCのドラマ『シャーロック』第3シーズンのラスボスである恐喝王・マグヌセンは、様々なネタをもって要人をも強請る。彼の邸宅に膨大な資料が隠されていると目されたが、実際には物的証拠は何一つ…

ささやかな観察と記録『ナショナル・ストーリー・プロジェクト』

『ナショナル・ストーリー・プロジェクト』 出版社:新潮社 編者:ポール・オースター 訳者:柴田元幸 他 原著:I Thought My Father Was God And Other True Tales From NPR's National Story Project (2001) 『家、ついて行ってイイですか?』というテレビ…

ビジョンで惹きつけろ『経営の指針』

平野正雄『経営の針路 世界の転換期で日本企業はどこを目指すか』 ダイヤモンド社(2017) 冷戦後の(だいぶ)マクロな経済変化をグローバル・キャピタル・デジタルの3要素から読み取り、それに対する日本企業の現状とこれからが述べられたものである。 大き…

またも良かった『母の記憶に』

ケン・リュウ『母の記憶に』 早川書房(2017年) 中国生まれ米国育ちの小説家による短編集第2弾。前短編集『紙の動物園』も信じられないほど面白かったが、今回もとんでもなく面白い16編が詰まっている。 SF・ファンタジーに分類されるケン・リュウの作品の…

豊かで、明るく、満ち足りた場所『これが見納め』

『これが見納め 絶滅危惧の生き物たち、最後の光景』 出版社:みすず書房 著者:ダグラス・アダムス / マイク・カーワディン 訳者:安原知見 原著:Last Chance To See (1990)

むかわ町のプロジェクトX『ザ・パーフェクト』

土屋健『ザ・パーフェクト ハドロサウルス発見から進化の謎まで』 誠文堂新光社(2016年)