豊かで、明るく、満ち足りた場所『これが見納め』

これが見納め―― 絶滅危惧の生きものたち、最後の光景

『これが見納め 絶滅危惧の生き物たち、最後の光景』

出版社:みすず書房

著者:ダグラス・アダムス / マイク・カーワディン

訳者:安原知見

原著:Last Chance To See (1990)

  ユーモアSF作家のダグラス・アダムスが、動物学者のマイク・カーワディンと共に絶滅の危機に瀕している動物を世界各地に訪ねる。


 訪ねたのはマダガスカル島のアイアイ、インドネシアコモドオオトカゲ、旧ザイールのマウンテンゴリラとキタシロサイニュージーランドのカカポ、中国のヨウスコウカワイルカ、そしてモーリシャスのロドリゲスオオコウモリや固有の鳥類たちである。

 ダグラスの旅は1980年代終わり頃のもので、それぞれの動物の状況も変化した。本書内でも紹介されたようなカカポの保全活動は実を結んでいるようだ。しかしヨウスコウカワイルカは絶滅、キタシロサイも絶望的な状態になっており、本当に見納めになってしまった動物もいくらかいるのは残念だ。

 動物に至るまでの道中はすったもんだで、ユーモアあふれる紀行文として笑いを誘う。基本的には辺境に赴くため、その苦労もひとしおだ。ようやくたどり着いた絶海の島がアメリカ人でいっぱいの観光地になっていたり、即席水中マイクを作るために中国でラバーを探し回るくだりは特に傑作だった。著者の着眼点には感服である。

 しかしドタバタの末に出会う動物の姿を見つめる目はまっすぐだ。観光資源になったコモドオオトカゲとそれを見る自分自身への鋭い問いかけや、マウンテンゴリラと対峙した時の全く違う知性をありのままに受け入れる様子が瑞々しくも描かれる。ヨウスコウカワイルカを守ろうとする人々の姿など、絶滅に瀕する動物を守ろうとする保護活動家の姿も同様にまっすぐと記述し印象的だ。カカポを探し出す一章は特に訴えかけるものがあり、これを読んで保護活動に寄付をする人が増えたというのも頷ける。

 珍道中の中でこそなのか、動物の姿がありありと浮かび、なぜ動物が絶滅しかねないことになってしまったのかを自然と飲み込ませてくれる良書であった。なぜその動物を守るべきかという問いには、マイクが最後に答えている。「かれらがいなくなったら、世界はそれだけ貧しく、暗く、寂しい場所になってしまうからなのである」。本書の豊かな内容の後では、この言葉がどれだけ輝いているかわかるだろう。