むかわ町のプロジェクトX『ザ・パーフェクト』

ザ・パーフェクト―日本初の恐竜全身骨格発掘記:ハドロサウルス発見から進化の謎まで

土屋健『ザ・パーフェクト ハドロサウルス発見から進化の謎まで』

誠文堂新光社(2016年)

  今年のGW前の一大ニュースといえば「むかわ竜」である。

 北海道むかわ町白亜紀末に形成された地層から発見されたハドロサウルス科恐竜の化石が、全長8m以上と国内で最大の全身化石であったという発表だ。偶然にもそのタイミングで読んでいたのが本書『ザ・パーフェクト』であったので、興味深くニュースを見た。本書は、このむかわ竜の発見・発掘を、そこに関わった様々な人の視点を通じて捉えていく、ドキュメントタッチの発掘記録である。

 むかわ町穂別は化石の産地である。特に有名なのはアンモナイトで、直径が1mを超えるものもある。同じ無脊椎動物であれば、ゆるキャラ化された巨大な二枚貝・イノセラムス類も有名だ。脊椎動物であればクビナガリュウ類、モササウルス類、大型のカメといった化石が見つかっているのだ。いずれも恐竜ではないが、わくわくさせられる生き物である。クビナガリュウが迎える穂別博物館に行けばその充実ぶりがわかる。

 それらの化石からわかるように、穂別のあたりはかつて海だった。北海道が海だった白亜紀に堆積したのが蝦夷層群と函淵層群であり、北海道を南北に割くように分布する。むかわ竜の全身化石の発見は、2003年4月にこの地層に化石収集に向かった堀田良幸さんによるものだった。この時に見つけられたノジュールには、見事につながった尾椎骨が閉じ込められていたのである。

 とはいえ、その姿が現れたのは2011年のことである。前述のノジュールはすぐに穂別博物館に運ばれたものの、他の化石のクリーニングとの兼ね合いからすぐには処理がされていなかった。そんなノジュールが、クビナガリュウ類研究者の佐藤たまきさんの指摘からクリーニングにかけられ、血導弓の形からにわかに恐竜の可能性が浮かび上がる。ここまで静置されていた年月に比べれば驚くべきスピードで物語が動き出すこの発見の瞬間は、本書のハイライトといってもいい。

 この化石の同定を依頼された小林快次さんは、発掘現場を確認し、そこに尾椎より先の全身が埋まっていることをほぼ確信する。ここからが発掘・採集の始まりだ。ここからは行政もからみ、日本において大規模な発掘作業をするというのがどういうことかがありありとわかる構成になっている。初めはここに埋まっている化石の価値を判断しかねていた様々な関係者が、大腿骨、頭骨と発掘が続くに連れ、認識を改めながら協力の輪を広げていくような流れはドラマチックである。

 この恐竜の発見・発掘は、様々なプロが適所に居たために上手く進んだように見える。特にその豊富な経験から超人的な働きをする小林さんは大きな役割を果たしているが、そもそも発見したモジュールが持ち出されずに博物館に収められたこと、専門外の化石の同定をしっかりと専門家に任せる判断をしたことが、適切な対処につながったように思う。教訓的であるとも感じる。

 むかわ町はこのハドロスルス科恐竜を契機に「恐竜ワールド構想」を掲げた。恐竜の発見が貢献するのは科学だけではない。この日本古生物学史上最大級の発見を取り囲むプロジェクトXは始まったばかりである。