異星人を弁護せよ『イリーガル・エイリアン』

イリーガル・エイリアン (ハヤカワ文庫SF)

ロバート・J・ソウヤー『イリーガル・エイリアン』

原著:ILLEGAL ALIEN(1997)

 

 TBSラジオ『アフター6ジャンクション』の「なにこれミステリー特集」にて、池澤春菜さんが紹介されていた一冊。初めて表紙を見た時は「大丈夫か」と心配になったものの、全くの杞憂でした。紹介の通りめっぽう面白く、一気読みしてしまった。

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 Genesisの曲にもある「イリーガル・エイリアン」とは、普通は不法入国者を示す言葉である。しかし本書の場合は、「法を犯した異星人」とでも訳すのがいいだろうか。表紙に描かれた姿形の異星人・トソク族が、殺人の容疑で逮捕され裁判にかけられるのである。まさにSF法廷ミステリというべきはちゃめちゃな設定だ。しかし、異星人とのファーストコンタクトを扱うSFとしても、アメリカの法制度下で繰り広げられる裁判劇としても、誰が・なぜを解き明かす推理ものとしても、しっかり練りこまれた上質のエンタメである。

 明らかに人間にはできないような殺害方法で、異星人による犯行としか思えないとしても、異星人を裁判にかけるのは容易ではない。身体の構造も、育ってきた環境も違う。そうとなれば常識が異なるのがあたりまえで、人前で話すことをタブー視する内容も、嘘をつかないと誓う神に対する認識だってズレたものになる。さらに、これが異星人とのファーストコンタクトなのだから、地球側の対応如何では存亡にも関わる。こうした複雑な状況下で、どのように陪審員が選ばれ裁判が進められるのかが読みどころだ。

 「なんだこの表紙の生き物は…」と思ったトソク族も、読み進めるうちに愛着が湧いてくる。決して分かり合えない相手ではなく、理知的な冗談は言うし、見栄を張ったりしょんぼりしたりする。人間くさいなとも思うし、なんならだんだん可愛く見えてくる。その度に、感情と連動してふさふさと動く頭の毛を想像しながら読んでみてほしい。