行きたいとこも行けないこんな世の中じゃ『太陽系観光旅行読本』

太陽系観光旅行読本:おすすめスポット&知っておきたいサイエンス

オリヴィア・コスキー&ジェイナ・グルセヴィッチ『太陽系観光旅行読本 おすすめスポット&知っておきたいサイエンス』

出版社:原書房

翻訳者:露久保由美子

原著:VACATION GUIDE TO THE SOLAR SYSTEM(2017)

 

 COVID-19が蔓延する中、とにかく苦しいのは旅行ができないことである。国間なんてもってのほかだし、都市間だって憚られる。そんなせせこましい状況ならいっそ、星間旅行にまで思いを馳せてしまえばどうだろう…?民間人の宇宙旅行がいよいよ現実的になる今日この頃、どの惑星を訪れたいかを考えるのは早いほうがいい。何しろ最適なローンチウィンドウが数十年に一度のタイミングしかない惑星もあるのだ。Intergalactic Travel Bureauはあなたの旅行計画をサポートしてくれるだろう。

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 太陽系の惑星に月と冥王星を加えた、9つの天体への旅行ガイドがこの本である。表紙にもあるようなレトロな質感のイラストで彩られたガイドに目を通せば、星々のアクティビティに思いを馳せること間違いない。NASAもやってたけど、宇宙業界はちょっとレトロな旅行ポスターを作るのが好き。

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 ありきたりだけど行ってみたいのは火星だ。1日の長さは地球に近いし、地球と比べて馬鹿みたいに極端な気温でもない。月は近くて物足りない、という時に最適な観光地であろう。一番の観光スポットはやはりオリンポス山で、麓から山頂までの高さは約18kmと、太陽系最大の火山である。1ヶ月ほどの時間をかけての登山をやってみたいものだ。グランドキャニオンを膨らませたような圧倒的な景観を望んでのサイクリングも楽しいに違いない。また、これまでに送られた探査機をめぐる史跡ツアーも良いだろう。『火星の人』の聖地巡礼として、パスファインダーはぜひ訪れたいし、ジャガイモ料理も味わいたい。

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 もう一つ行きたいのは土星である。輪を持つこのガス惑星は、地球から12億〜16億kmの距離にある。空の96%を水素が満たす中、地球とは異なる雷鳴を聴いてみたい。気流が生み出す模様の移ろい、極付近で発生する大規模なオーロラなど、上空からの景観の美しさは間違いなく素晴らしいはずだ。お土産はきっと、土星の中心付近で雨のように降るダイヤモンドだろう。周囲を取り巻く62の衛星もそれぞれ個性的で、アクティビティには困らない。常に夕闇に包まれるタイタンでは、炭化水素の湖で遊ぶことができる。ボートを浮かべ、緩やかな波にたゆたうのもいいだろう。

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 とはいえ土星に行くのは容易ではないようだ。木星の重力アシストが受けられるタイミングで行くのが費用的にもベストであるものの、そのタイミングは12年に一度なので、チケットにはプレミアがつきそうだ。また、この方法でも片道に3年ほどを要する。人生計画にしっかり組み込んだ旅程を組もう。