幸福のデザイン『愛の本』

菅野仁『愛の本 他者との〈つながり〉を持て余すあなたへ』 ちくま文庫(2018年) 幸福とは何か。その具体性は異なるものの、個人ごとのある一定の条件を満たすことだと著者は言う。その条件とは、「自己充実をもたらす活動」および「他者との交流」である。…

人工生物への期待と恐れ『合成生物学の衝撃』

須田桃子『合成生物学の衝撃』 文藝春秋(2018年) 生命を「工学」する 本書は2つのパートに分けることができるだろう。そのひとつが生物学を工学化する営みのドラマである。 生物はDNA配列というプログラムでコードされたシステムで動いているということが…

今月みたもの(2019年5月)

まだまだMCUマラソンは続くのだ…! テイラー・シェリダン『ウィンド・リバー』(Wind River)2017年 と言いつつ早速脱線したが、ホークアイとワンダが出ているからいいじゃない。だってもうツタヤのMCUコーナーが空っぽだったもので…。 真っ白な雪原を荒野に…

自由のために『ふだんづかいの倫理学』

平尾昌宏『ふだんづかいの倫理学』 晶文社(2019年) 本書の冒頭は、いくつかの例題から始まる。ちょっと紹介してみよう。 1)あなたは都道府県知事。賄賂を渡すから発注してほしいと工事業者。どうする? 2)結婚をしようとした相手が重い病気に。どうす…

今月きいたもの(2019年4月)

Stella Donnelly『Beware Of The Dogs』(2019年) オーストラリアのSSW。パンクも逃げ出すような強い言葉が歌われているようだが、曲調は超絶ポップでどこか牧歌的。したがって晴れた昼間に聴くのが良い。でも歌詞は衝撃的なもの。それでも曲調は爽やか…と…

今月みたもの(2019年4月)

スティーヴン・スピルバーグ『ブリッジ・オブ・スパイ』(Bridge of Spies)2015年 冷戦下、米ソが互いに捉えた諜報員同士の交換に奔走する弁護士ドノヴァンの物語。たとえ敵国のスパイであろうと、法の下では平等な人間として扱わなければならないと主張し…

それでも見せびらかしたい『消費資本主義!』

ジェフリー・ミラー『消費資本主義!』 出版社:勁草書房 翻訳者:片岡宏仁 原著:Spent. Sex, Evolution and Consumer Behavior (2009) 私たちは地球でもっとも発展した知的生命体のはずだ。にもかかわらず、なぜハマーなんていう非効率なものを所有したが…

ゲノム編集がやってくる『ゲノム編集の衝撃』

NHK「ゲノム編集」取材班『ゲノム編集の衝撃 「神の領域」に迫るテクノロジー』 NHK出版(2016年) こんな報道もあったりして、いよいよゲノム編集技術と生活との接点が増えていきそうだ。そもそもゲノム編集とはなんなのか。研究が活況を示し始めた様子を追…

今月みたもの(2019年3月)

ボブ・ペルシケッティ、ピーター・ラムジー、ロドニー・ロスマン『スパイダーマン:スパイダーバース』(Spider-Man: Into the Spider-Verse)2018年 運命を前に逃げ出すのではなく、何度も立ち上がり立ち向かわなければならない。それは決してひとりきりの…

渇望と虚しさ『ブッチャーズ・クロッシング』

ジョン・ウィリアムズ『ブッチャーズ・クロッシング』 出版社:作品社 訳者:布施由紀子 原著:BUTCHER'S CROSSING (1960年) 1873年のアメリカ・カンザス州〜コロラド準州を舞台にした小説。架空の街・ブッチャーズ・クロッシングにやってきた若者・アンドリ…

人と機械のつきあい方『デジタルアポロ』

デビット・ミンデル『デジタルアポロ 月を目指せ 人と機械の挑戦』 出版社:東京電機大学出版局 翻訳者:石澤ありあ 原著:DIGITAL APOLLO: Human and Machine in Spaceflight (2008) 自動車のクルーズコントロールって使います?アクセルを踏まなくても設定…

今月きいたもの(2019年2月)

James Blake『Assume Form』(2019年) ロンドンのシンガー・ソングライターの4枚目。奇妙さや冷たさは作品を重ねるごとに薄れている印象で、今作では肉感的な温かさもある。もろヒップホップな音も増えている。美しい荘厳さを秘めているのは変わらず、それ…

今月みたもの(2019年2月)

デイミアン・チャゼル『ファースト・マン』(First Man)2018年 僕らの生まれてくるずっとずっと前にはもうアポロ11号が月に行ったという話。IMAXで鑑賞。4DXにすればよかった。 冒頭から観客は狭い飛行機に押し込められ、飛行テストの真っ只中に放り出され…

麻薬カルテルの経営学『ハッパノミクス』

トム・ウェインライト『ハッパノミクス 麻薬カルテルの経済学』 出版社:みずす書房 翻訳者:千葉敏生 原著:NARCONOMICS How to Run a Drug Cartel (2016) 映画『ボーダーライン』は、アメリカとメキシコの国境の街を舞台に、麻薬カルテルの捜査を描いた作…

間をつなぐひと『おクジラさま』

佐々木芽生『おクジラさま ふたつの正義の物語』 集英社(2017年) 本書は2017年に公開されたドキュメンタリー映画を監督自身が書籍化したものである。イルカ漁をめぐり和歌山県太地町で巻き起こる対立を、「中立な」視点で捉えようとしたものである。 こと…

今月みたもの(2019年1月)

リドリー・スコット『ブレードランナー ファイナルカット』(Blade Runner)1982年 10年くらい前に初めてみたときは、最後の格闘シーンで寝てしまうということがあった。今回も集中力は全く続かなかったのは否めない。世界観も雰囲気も好みなはずなのにどう…

苦難を乗り越えて『鳥たちの旅』

樋口広芳『鳥たちの旅 渡り鳥の衛星追跡』 NHK出版(2005年) 小型計測機器を使い動物の移動や行動を計測するバイオロギング研究。本書はその最初期にあたる研究を紹介する内容と言えそうだ。 鳥の中には、年中同じ場所にとどまる「留鳥」と、季節的に移動す…

電脳じゃなくてもハックできる『つくられる偽りの記憶』

越智啓太『つくられる偽りの記憶 あなたの思い出は本物か?』 化学同人(2014年) 私が私であることの証明を記憶に求めるならば、本書が示す内容は恐ろしいと思えるだろう。 人の記憶は、あとからいくらでも歪められる。記憶は時系列に積み上がっていくもの…

今月きいたもの(2018年11月)

QUEEN『Rock Montreal』(2007年) 1981年のライブを収めたアルバム。次々と曲が繰り出され、本当にすごいライブバンドだったんだなと。アルバムではあまりピンとこなかった後期のポップなハードロック調の曲も突然輝きを見せる。 QUEEN『A Night At The Ope…

今月みたもの(2018年11月)

ブライアン・シンガー『ボヘミアン・ラプソディ』(Bohemian Rhapsody)2018年 史実と違うとか、いんだよ細けえことは‼︎という映画。まず冒頭、ライブエイドの舞台に登場したフレディと一緒に、スクリーンいっぱいに広がるウェンブリーの観客を見下ろしたそ…

もうハトから目を離せない『ハトはなぜ首を振って歩くのか』

藤田祐樹『ハトはなぜ首を振って歩くのか』 岩波書店(2015年) ハトはなぜ首を振って歩くのか。テレビやネットの豆知識としてメジャーになった感もあり、理由を知っている人も多くいるだろう。でも鳥見をしていれば、カモなんかは首を振らずに歩いているこ…

カレーライス、だあいすき『カレーライスと日本人』

森枝卓士『カレーライスと日本人』 講談社学術文庫(2015年) 私の住む札幌でカレーといえば、やはりスープカレーである。スパイスの効いたさらりとしたスープに盛りだくさんの具を浮かべ、ライスを浸して食べる。元々は薬膳をヒントに札幌で生み出されてい…

今月きいたもの(2018年10月)

Novo Amor『Birthplace』(2018年) ウェールズのシンガー。今時珍しく、カーラジオで耳にして知ったアーティスト。ボン・イヴェールとかアウスゲイルとか、そのままなんだけど、こういうのに本当に弱い。ユーフォリアがテイクマイハンドしてくれる。 Novo A…

今月みたもの(2018年10月)

ポール・グリーングラス『ユナイテッド93』(United 93)2006年 2001年のアメリカ同時多発テロにてハイジャックされた4機のうち、唯一ターゲットに到達しなかったユナイテッド航空93便の様子を描いた映画。綿密な調査に基づいたリアリティ、無名俳優や当事者…

今月きいたもの(2018年9月)

Troye Sivan『Bloom』(2018年) 南アフリカ出身、オーストラリア育ちというシンガーのセカンド。ただただ高揚するだけではなく、深く広がるようなイメージも持たせるポップアルバム。The Killers好きの私にちょうどいい。「The Good Side」や「Postcard」な…

今月みたもの(2018年9月)

ディーン・パリソット『ギャラクシー・クエスト』(Galaxy Quest)1999年 めちゃくちゃ面白かった。パロディかつメタ的な視点の映画のわりに、すっきりとした話はこび。宇宙船の核心部に続く道が無意味にダンジョンじみているところなど、ニヤニヤする場面の…

今月きいたもの(2018年8月)

蓮沼執太フィル『アントロポセン』(2018年) アントロポセン(人新世)は新しい地質年代の名前で、人類の活動がついに地質学的にも地球に影響を…とアルバムには強いテーマがあるようだが、それを差し置いて曲が豊かで嬉しさがこみ上げる感じだ。総勢16名の…

今月みたもの(2018年8月)

ロン・アンダーウッド『トレマーズ』(Tremors)1990年 外で遊びすぎて、BSでやってたこの映画しか観ていない。小さい頃にもテレビで観たような記憶がある。怪物が出るとなると街中大パニック!となるところだが、いかんせんこの映画では人口20人弱くらいの…

境界を揺れる『プラネタリウムの外側』

早瀬耕『プラネタリウムの外側』 ハヤカワ文庫JA(2018年) BBCのドラマ『シャーロック』第3シーズンのラスボスである恐喝王・マグヌセンは、様々なネタをもって要人をも強請る。彼の邸宅に膨大な資料が隠されていると目されたが、実際には物的証拠は何一つ…

今月きいたもの(2018年7月)

Janelle Monáe『Dirty Computer』(2018年) 3枚目のフルアルバム。とてもポップで大変うれしい。どの曲もしなやかにパワフルで、知らないうちに殴られている感じである(これがビヨンセだと真っ正面から圧倒的にねじ伏せるような印象になる)。ファンキーさ…