世界商品が歴史を動かす『砂糖の世界史』

砂糖の世界史 (岩波ジュニア新書)

川北稔『砂糖の世界史』

岩波ジュニア新書(1996年)

 

 世界中どこでも需要があり使われる商品を世界商品と呼ぶ。16世紀以来の世界の歴史は、その時々の世界商品をどの国が握るかという競争の歴史であった。古くは銀や綿織物、そして石油や自動車などが世界商品の例となる。最近なら、(一時的には)マスク、ワクチン、電気自動車などが思い浮かぶ。

 そうした世界商品の中でも、歴史に大きなインパクトを残したものの一つが砂糖である。何しろ16世紀から19世紀にかけてのサトウキビプランテーション施策は、植民地獲得・奴隷貿易の原動力でもあり、現在に至るまでのカリブ海諸国・アフリカ諸国の発展を妨げた要因ともいえるのである。

 なぜ砂糖が重要な世界商品になったかというと、イギリス人が紅茶に砂糖を入れて飲み始めたからである。インドネシアが原産とされるサトウキビから作られる砂糖は、ヨーロッパの人々にとって当初は高級品であった。医薬品として摂取されたり、砂糖でオブジェをつくることで経済ステータスの誇示に使われたりしていた。17世紀になり、コーヒーハウスでの飲み物として当時まだ高価だった紅茶が普及すると、高級に高級を重ねる成金の遊びのごとく、紅茶に砂糖を入れてのマウントの取り合いが始まった(美味しかったから、とは描かれない)。さらに一般市民もこうした飲み方をマネしようとするようになり、砂糖入り紅茶は朝食に欠かせないものとして定着、イギリスは砂糖の一大消費国となったというわけだ。

 そうした砂糖消費量をまかなうため、カリブ海の植民地に次々とプランテーションを設立し、アフリカからの黒人奴隷をどんどん流し込んで砂糖生産を行った。植民地は生産地として使い荒らされ文化も経済も育たず、アフリカからは働き盛りの人が流出したため国内の発展は遠のいた。この影響は現在まで続いている。

 たった一つの世界商品が、いかに広く・長く世界に影響を与えたかを知ることができる。そしてこれは過去の話ではなく、グローバル経済の中では、同じように商品を軸として世界の歴史が動きつづけているはずだ。

俺はいつまで男子でいるつもりだ問題『貴様いつまで女子でいるつもりだ問題』

貴様いつまで女子でいるつもりだ問題 (幻冬舎文庫)

ジェーン・スー『貴様いつまで女子でいるつもりだ問題』

幻冬舎(2014年)

 

 「男の子の方がライフプランを考えないよね」という話を先日した。自分を見れば、確かにと納得するしかない。結婚する・しない、仕事する・しない、子どもをつくる・つくらないという人生の選択をどの年齢で行うか、男性は女性よりも身体的制約が少ないからだろうか。それに、結婚に伴い姓を変えるかどうかなど、選択に伴い考慮すべきことは女性の方が多いようにも思える。誤解を恐れず言えば、男性の方が漫然と、選択肢へのタイムリミットを気にせず過ごしていられる。いつまでも男子のままでいられるのだ。

 本書の中で、「女性は家庭に入り家を守る」という価値観は、「男性が仕事で稼いで」という枕詞の上に成り立つとさらりと語られる。ああそうかと腑に落ちる。本当に、いまさら本当に恥ずかしいのだが、昔からの男女の役割分担は選択肢の一つでしかないという社会になる、目指していくという中で、いかに自分が「男性としての価値観を変えること」に無頓着だったか気づいたのだ。「従来の社会に女性が進出するのを受け入れる」のが男女共同参画であるという感覚が私の中にあったのである。もちろんそれは間違いだ。

 「女性は家庭に入る」価値観を崩していくなら、その枕詞だって意味をなさない。私は、私の中の男性としての価値観の更新に向かい合わなければならない。いつまでも男子ではいられないのだ。それならば、ぼんやりしたライフプランも少し解像度を上げよう。自分自身は、パートナーとは、どうしていきたいかもっと対話しないといけないな。

 一方でそれは、生きづらさを軽減もしてくれるはずだ。仕事をし続けて家族を養うという役割以外に視野を広げられる。なんとしても仕事にしがみついて踏ん張る、といった足枷を無くしてくれるだろう。それに、「男が仕事」の価値観のもとで会社の同僚を見れば、大して仕事をせずに在籍し続けることが目的の人が一定数いることも理解できる、と本書は痛快に教えてくれる。人間関係、社会でサバイブするための知恵にもなるのだ。

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 著者のポッドキャストも聞いているが、ぼんやりと感じる生きづらさがどんどん明確に言語化されていくのがすごい。「おばさんの互助会番組」とのことではあるものの、性別・年齢を超えて、しぶとく生き抜く姿勢に力をもらえる。

 ところで、私が切り取ったのは本書のごくごく一部でしかないので、決してジェンダーに関する内容だけの本ではないことは付記しておきたい。タイトル通りの話題はもちろん、「東京は地方出身者の理想を具現化する植民地か」など、女子でなくとも膝を撃ちたくなる視点が盛り沢山である。

今月みたもの(2019年7月・8月)

金子修介樋口真嗣ガメラ 大怪獣空中決戦』1995年

ガメラ 大怪獣空中決戦

  ガメラが無料で観れる!というのでうっかりプライム会員になりました。人の目線の高さから怪獣を描き切っていてすごい。

 

金子修介樋口真嗣ガメラ2 レギオン襲来』1996年

ガメラ2 レギオン襲来

  すごく真っ当なSF映画。これを札幌市民として観ることができる喜びよ。

 

金子修介樋口真嗣ガメラ3 邪神覚醒』1999年

ガメラ3 邪神<イリス>覚醒

 ボーイミーツガールなファンタジー映画。特撮は全部見どころ。美しい。

 

金子修介神谷誠ゴジラ モスラ キングギドラ 大怪獣総攻撃』2001年

ゴジラ モスラ キングギドラ 大怪獣総攻撃

 金子修介監督つながりで観た。樋口真嗣監督の画作りってすごかったんだな…。

 

ジョーダン・ピールゲット・アウト』(Get Out)2017年

ゲット・アウト(字幕版)

 みんな総じて顔ヂカラが強くて不安を煽る。「私たち差別しません」という人々もまあ気味悪いものだなと思わせる前半からの、ボディスナッチャー展開の後半まで、楽しい映画でした。

 

トビー・フーパー悪魔のいけにえ』(The Texas Chain Saw Massacre)1974年

悪魔のいけにえ 公開40周年記念版(字幕版)

 夏なのでホラーを観てみようと…。痛そうなシーンは苦手なのだが、意外と直接的な表現は少なくてよかった。蒸した匂いが漂ってきそうな画面や、挟まれる凝ったアングルから目が離せない。ガラガラピシャーンと閉まる扉のシーンがなぜかもっとも印象に残る。レザーフェイスは不器用かわいい。

 

ベン・シャープスティーン、ハミルトン・ラスク『ピノキオ』(Pinocchio)1940年

ピノキオ(吹替版)

 ディズニーランドのピノキオのアトラクションが苦手である。金をせしめる悪人が大々的に描かれているところなど、何が楽しいのだろうか…。という気持ちを抱きつつ観た。ピノキオは確かに素行不良なところがあるのだが、全て大人がそそのかしている…。そしてその大人が裁かれることはない…。殺伐としたおとぎ話だった。

 

ジョン・マスカー、ロン・クレメンツ『アラジン』(Aladdin)1992年

アラジン (吹替版)

 子供の頃、友達の家にはたいがいアラジンのビデオがあったな…。ついに初見。面白かった。ジニーがいればだいたいオッケーである。

 

ベン・シャープスティーン『ダンボ』(Dumbo)1941年

ダンボ (吹替版)

 母(マッド・エレファント)の愛に泣く。しかし、終盤も終盤に飲酒による幻覚を数分間繰り広げる胆力には恐れ入った。

 

バルタザル・コルマキュル『2ガンズ』(2 Guns)2013年

2ガンズ (字幕版)

 綺麗なディズニー映画を立て続けに見すぎたので、麻薬映画を観た。マキシマムザホルモンの曲のようにめまぐるしく展開する脚本がすごい。面白いよ。

 

 

自己正当化してない?『自分の小さな「箱」から脱出する方法』

自分の小さな「箱」から脱出する方法

アービンジャー・インスティチュード『自分の小さな「箱」から脱出する方法 人間関係のパターンを変えれば、うまくいく!』

出版社:太田出版

原著:LEADERSHIP and SELF-DECEPTION Getting out of the Box (2000年)

 

 「箱」とはなにか。自分の殻に閉じこもるとか、そんなことを思い浮かべていたけれど、その定義はちょっと違う。

 これをやったほうが本当はいいかな、と心によぎったことを、なんのかんのと理由をつけてやらない。こうして言い訳を作るような心の動きを「箱に入る」というのだ。

 本書内の例がとてもわかりやすい。夫たるあなたが寝ていると、子供が夜泣きする。妻は気付かず寝ているようだ。自分があやしに行けば妻は起きずに済む、という思いも浮かんだが、結局寝たふりをしてしまう。こうした時の心の動きとして、①自分は疲れているし普段は良い夫じゃないかという正当化、②これで起きないなんて妻は怠け者だという歪んだ視点の獲得、③そうした認識を自分の通念として持ち続けてのちの関係にも適用してしまう、ということが起こるという。こうした自己正当化、自己欺瞞のきっかけは、そもそも「子供をあやしにいった方がいい」という感情に背いたことにあるのである。

 なかなか身につまされる話だ。仕事で報告するタイミングを後ろ伸ばしにしてしまう、不要に相手に冷たく当たってしまう、電車で席を譲らずやり過ごすといった全てがなんだか当てはまりそうだ。うまくいかないのは相手が悪いとか、外的要因に求めようとすることが多いが、実際は自分自身が箱に入っていることが原因なのである。

 なぜ箱に入ってしまうのか、箱に入ると何が起こるのか、箱から脱出するにはどうすれば良いか、物語形式で進むのでスッキリと飲み込める。自身の心のコントロールの一助として有用な一冊だと思う。