これでもう残せない『すべて食べよう』

Just Eat It [DVD] [Import]

NHK BS1 世界のドキュメンタリー

『すべて食べよう』(2018/3/30放送)

JUST EAT IT. A Food Waste Story(カナダ 2014年)

 

 世界では、食べるために生産されたものの約30%が廃棄されるという。コンビニから出てくる、期限切れの商品が詰まったゴミ袋の山を見ると、さもありなんとも感じる。でも実は、家庭で買いすぎてしまうことも深刻な問題だ。ニューヨークでの調査では、家庭からの食品ロスの量が、レストランや農場より多かったというのだ。飢えに苦しむ人もたくさんいるというのに。僕の冷蔵庫にも、廃棄候補がたくさん眠っている。

 バンクーバーに住む映像作家夫婦は、捨てられる食品だけを食べる生活をすることで、この食品ロスの問題に向き合おうとした。ルールは3つ。①期間は6ヶ月、②廃棄食品だけ食べる、③家族や友人の差し入れはOK。最後の項目はちょっと釈然としないが、とにかくスタートだ。

 

PERFECTION:安全な状態または品質

 我々は品質を過剰に求めがちだ。ちょっとでも変形していたりすれば、味が良くても手に取られない。見た目が第一なのである。客が買わないなら市場も買わない。ある果樹園では、生産物の2割から7割が見た目だけを理由に規格外としてはじかれる。品質への要求が、食品ロスを生むのである。

 夫妻はスーパーで、「品質第一」を理由に消費期限3日前に引き下げられるサラダを手に入れる。

 

MINDSET:文化または個人によって形成された観念

 ゴミのポイ捨ては犯罪として咎められかねないが、レストランでの食べ残しを罰されたことはあるだろうか?戦時中は必要に迫られたこともあって、食べ物を無駄にしない意識が強かった。しかし戦後、1人前の分量はどんどん増えてきた。クッキー1枚のカロリーは1980年代半ばから約4倍に増えた。我々はどんどん過剰な量の食事を求めるようになったのである。そしてそれがあたり前になってしまった。

 

 廃棄された食品をあさる夫妻は、流通の上流側である卸業者に足を運ぶ。そこには1年後が消費期限である大量のチョコレートがあった。おそらく、パッケージに2ヶ国語での表示が無かったために捨てられたのだという。たったそれだけのためにだ。

 

CONSEQUENCE:行動がもたらす結果・影響

 豊かさは人類の夢だ。農業が始まり余剰の食糧を得たおかげで、冬季の生活が保障され、物々交換の基礎ができ、祭典の宴も開かれるようになり、人間社会の生活様式が成立したのだ。しかしいまや、ありあまる豊かさは弊害ももたらす。オフシーズンの需要を満たすための作付けをするがために、最盛期には需要の3倍の生産量となってしまっているズッキーニを知っているだろうか?北米では、食べられる量の1.5倍の食糧生産がある。消費されもしない食糧を生産しているのだ。

 最終製品の食品を捨てるというのは、その流通過程すべてを捨てることに他ならない。食品も資源を使って作られる。例えば、食料生産に使われる水資源は、5億人を満たすほどの量に上る。ハンバーガー1個を作るのに要する水は、1時間半もシャワーを浴びるのと同じくらいの量なのである。

 

 夫妻は、プロジェクト開始前に想定していたよりも、廃棄食品を見つけることが容易いことに気づいた。特定のものが一気に大量に捨てられている場面に多く遭遇するし、それらはいずれも質が高い。何しろ製品の姿のまま捨てられるのだ。しまいには集めた食品が多すぎて人に配るまでになった。

 

RECOVERY:失ったものを取り戻すこと

 落穂ひろいの起源は旧約聖書の時代まで遡る。農家は収穫物の一部を、貧しい人のためにわざと残していたという。現代の落穂ひろいは、ボランティアによってなされる。農家の許可を得て収穫から漏れた生産物を拾い集め、施設などを通じて貧しい人に届けるのである。

 小売店は廃棄する食品を寄付しないのか?品質に不備があると訴訟になりかねないという誤った認識により、それはなされていない。アメリカでは寄付する者を保護する法律があるというのにだ。

 廃棄された食品は土に帰るわけでもない。アメリカでは廃棄された食品の97%が埋め立てられたり焼却されたりする。本当なら、人が食べることができず、家畜の餌にもならず、エネルギー・肥料にもならない食品だけが埋め立てられるべきなのに。

 

 夫妻はクエストというNPOと出会う。廃棄されそうな食品を持ち込み、貧しい人向けに安価に販売する店舗を運営する、という取り組みだ。これで余った食品を罪悪感を抱えながら捨てることもない。

 

CHANGE:変化または転換すること

 我々一人一人のモラルが問われている。個人ができる取り組みはたくさんある。冷凍庫を活用して長期保存してはどうだろう。買い物リストを作り、そこにあるものだけ買うようにしたらどうだろう。大量にまとめ買いせずに、こまごまと買い物してはどうだろう。4袋分の買い物をしたとして、そのうち1袋を地面にぶちまけたとしても気にせず置いていくのと同じだけの量を捨てている現状を少しは改善できるのではないか。

 

 6ヶ月の挑戦で、夫は料理に興味を持った。食べ物の持つ価値に気づいたのだという。

 期間中の2人の食費はたった200ドル。拾ってきた食品は2万ドル相当だった。