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それでも魚を食べたい『鮭鱸鱈鮪 食べる魚の未来』

鮭鱸鱈鮪 食べる魚の未来: 最後に残った天然食料資源と養殖漁業への提言

『鮭鱸鱈鮪 食べる魚の未来 最後に残った天然食料資源と養殖漁業への提言』

出版社:地人書館

著者:ポール・グリーンバーグ

訳者:夏野徹也

原著:FOUR FISH: The Future of the Last Wild Food (2010)

 野生動物でありながら食材としての大規模捕獲が行なわれる魚。本書では、4つの魚種を通し、我々がどのように漁業というものに向き合ってきたか、そして今後それはどうあるべきかを、釣り場や養殖場に赴きながら模索する。

 日本でも年中手に入る身近な水産物の筆頭は鮭であるが、店頭に並ぶその多くは、チリやノルウェー産の養殖アトランティックサーモンであるはずだ。国産のシロザケにしても、産卵環境が失われている場所も少なくないことから、多くは人工孵化放流によって「天然」資源量が確保されているものだ。本書の最初に登場する鮭は、人の手による生産体制が最も整えられた魚なのだ。

 養殖といえば魚の家畜化のようなイメージであるが、やや様相が異なることが本書からわかる。特に着目すべきは、養殖の対象とする種の選定の基準である。19世紀にゴルトンが示した家畜に適した動物の条件(丈夫なこと、飼育環境に満足しやすいこと、最小限の世話で済むことなど)というのがあるのだが、養殖魚種はこれに準じない。経済的価値があるものから養殖対象が選ばれたと言っても良い。前述の鮭にしても、先行して養殖が発展したのは、たまたま卵サイズが大きく扱いやすかったためであり、1kgの鮭を生産するのに3kgは野生魚由来の餌を準備してやらねばならず、生産効率の良いものではない。

 養殖が盛んなマグロでは、完全養殖はまだ成功したばかり、ほとんどは自然界から若いマグロを捕獲してきて育てる蓄養である。そのため養殖とはいえ結局は天然資源を利用しているのと変わらず、なおかつ蓄養で成長したところで産卵によって天然資源量維持に寄与することも望めなくなる。その上、育てる上での非効率さは飛び抜けており、1kgの魚肉生産に20kgの餌が必要なのだという。

 著者は、家畜の選定基準に適合した魚種を2つ紹介している。バラマンディとコナ・カンパチである。いずれも繁殖はしやすいし、餌も多くを必要としない。まさに救世主的な存在であるが、これを我々は受け入れられるだろうか。

 世界的な水産物需要の高まり(先端は日本である)を背景に、養殖はどんどん広がってはいる。しかしすり身などで膨大な量が消費されるタラでは養殖が産業として確立されてはいないし、クロマグロやウナギのように蓄養が盛んな絶滅危惧種もいる。これまで通りの水産物を食べ続けるには、天然資源にまだまだ頼らなくてはならない。

 持続的に天然資源を利用しながら、適切な養殖物にシフトしていくことが必要だろうか。そうなれば、消費の形は、食生活はどう変わるだろうか。そもそも我々は水産物をこの先どうしていきたいのだろうか。魚を見る目の変わる一冊である。