今月みたもの(2018年5月)

 記録のために始めてみよう。

 

ルイス・ギルバート『007 ムーンレイカー』(007 Moonraker)1979年 

ムーンレイカー(デジタルリマスター・バージョン) [DVD]

  BS-TBSで007をどしどし放送しているのでちょこちょこ観ている。SFブーム真っ盛りに作られたというこの11作目では、ジェームズ・ボンドがついに宇宙で活躍する。冒頭のパラシュートで落下しながらの格闘シーンはとんでもない迫力で良い(なんとすべて実写)。その後はおおよそ笑いを誘う展開が多く、ふにゃけているうちに話が終わった。森の中で犬に追われるシーンが美しかったのは覚えてる。

 

ジョン・グレン『007 ユア・アイズ・オンリー』(007 For Your Eyes Only)1981年

ユア・アイズ・オンリー (デジタルリマスター・バージョン) [DVD]

 オチが前作と同じ。鉄板なのか。雪山から水中から、あらゆるアクションシーンが詰め込まれていてお得。秘密兵器が出てこないので突拍子のなさはないが、それでもまぬけ感が漂うのはもはや愛おしいくらい。

 

ダグ・リーマンボーン・アイデンティティー』(The Bourne Identity)2002年

ボーン・アイデンティティー [DVD]

 なんでもありのイギリス諜報部に比べ、CIAは大変現実的。「何してんだこいつ…」と思うボンドに比べ、「なるほどそうするのか!」と思わせるのがボーン。寒々とした画の中には常に緊張感が漂い、身一つでスナイパーに対峙していく場面なんかは全く目が離せない。カーチェイスも良い。

 

ポール・グリーングラスボーン・スプレマシー』(The Bourne Supremacy)2004年

ボーン・スプレマシー [DVD]

 「ボーンつえー」という時間を過ごすための映画。でもそれが良い。ベルリンで追っ手を巻く場面は地味だけど好き。もしもの時に逃走する参考にしよう。続編も観なくちゃ。

これでもう残せない『すべて食べよう』

Just Eat It [DVD] [Import]

NHK BS1 世界のドキュメンタリー

『すべて食べよう』(2018/3/30放送)

JUST EAT IT. A Food Waste Story(カナダ 2014年)

 

 世界では、食べるために生産されたものの約30%が廃棄されるという。コンビニから出てくる、期限切れの商品が詰まったゴミ袋の山を見ると、さもありなんとも感じる。でも実は、家庭で買いすぎてしまうことも深刻な問題だ。ニューヨークでの調査では、家庭からの食品ロスの量が、レストランや農場より多かったというのだ。飢えに苦しむ人もたくさんいるというのに。僕の冷蔵庫にも、廃棄候補がたくさん眠っている。

 バンクーバーに住む映像作家夫婦は、捨てられる食品だけを食べる生活をすることで、この食品ロスの問題に向き合おうとした。ルールは3つ。①期間は6ヶ月、②廃棄食品だけ食べる、③家族や友人の差し入れはOK。最後の項目はちょっと釈然としないが、とにかくスタートだ。

 

PERFECTION:安全な状態または品質

 我々は品質を過剰に求めがちだ。ちょっとでも変形していたりすれば、味が良くても手に取られない。見た目が第一なのである。客が買わないなら市場も買わない。ある果樹園では、生産物の2割から7割が見た目だけを理由に規格外としてはじかれる。品質への要求が、食品ロスを生むのである。

 夫妻はスーパーで、「品質第一」を理由に消費期限3日前に引き下げられるサラダを手に入れる。

 

MINDSET:文化または個人によって形成された観念

 ゴミのポイ捨ては犯罪として咎められかねないが、レストランでの食べ残しを罰されたことはあるだろうか?戦時中は必要に迫られたこともあって、食べ物を無駄にしない意識が強かった。しかし戦後、1人前の分量はどんどん増えてきた。クッキー1枚のカロリーは1980年代半ばから約4倍に増えた。我々はどんどん過剰な量の食事を求めるようになったのである。そしてそれがあたり前になってしまった。

 

 廃棄された食品をあさる夫妻は、流通の上流側である卸業者に足を運ぶ。そこには1年後が消費期限である大量のチョコレートがあった。おそらく、パッケージに2ヶ国語での表示が無かったために捨てられたのだという。たったそれだけのためにだ。

 

CONSEQUENCE:行動がもたらす結果・影響

 豊かさは人類の夢だ。農業が始まり余剰の食糧を得たおかげで、冬季の生活が保障され、物々交換の基礎ができ、祭典の宴も開かれるようになり、人間社会の生活様式が成立したのだ。しかしいまや、ありあまる豊かさは弊害ももたらす。オフシーズンの需要を満たすための作付けをするがために、最盛期には需要の3倍の生産量となってしまっているズッキーニを知っているだろうか?北米では、食べられる量の1.5倍の食糧生産がある。消費されもしない食糧を生産しているのだ。

 最終製品の食品を捨てるというのは、その流通過程すべてを捨てることに他ならない。食品も資源を使って作られる。例えば、食料生産に使われる水資源は、5億人を満たすほどの量に上る。ハンバーガー1個を作るのに要する水は、1時間半もシャワーを浴びるのと同じくらいの量なのである。

 

 夫妻は、プロジェクト開始前に想定していたよりも、廃棄食品を見つけることが容易いことに気づいた。特定のものが一気に大量に捨てられている場面に多く遭遇するし、それらはいずれも質が高い。何しろ製品の姿のまま捨てられるのだ。しまいには集めた食品が多すぎて人に配るまでになった。

 

RECOVERY:失ったものを取り戻すこと

 落穂ひろいの起源は旧約聖書の時代まで遡る。農家は収穫物の一部を、貧しい人のためにわざと残していたという。現代の落穂ひろいは、ボランティアによってなされる。農家の許可を得て収穫から漏れた生産物を拾い集め、施設などを通じて貧しい人に届けるのである。

 小売店は廃棄する食品を寄付しないのか?品質に不備があると訴訟になりかねないという誤った認識により、それはなされていない。アメリカでは寄付する者を保護する法律があるというのにだ。

 廃棄された食品は土に帰るわけでもない。アメリカでは廃棄された食品の97%が埋め立てられたり焼却されたりする。本当なら、人が食べることができず、家畜の餌にもならず、エネルギー・肥料にもならない食品だけが埋め立てられるべきなのに。

 

 夫妻はクエストというNPOと出会う。廃棄されそうな食品を持ち込み、貧しい人向けに安価に販売する店舗を運営する、という取り組みだ。これで余った食品を罪悪感を抱えながら捨てることもない。

 

CHANGE:変化または転換すること

 我々一人一人のモラルが問われている。個人ができる取り組みはたくさんある。冷凍庫を活用して長期保存してはどうだろう。買い物リストを作り、そこにあるものだけ買うようにしたらどうだろう。大量にまとめ買いせずに、こまごまと買い物してはどうだろう。4袋分の買い物をしたとして、そのうち1袋を地面にぶちまけたとしても気にせず置いていくのと同じだけの量を捨てている現状を少しは改善できるのではないか。

 

 6ヶ月の挑戦で、夫は料理に興味を持った。食べ物の持つ価値に気づいたのだという。

 期間中の2人の食費はたった200ドル。拾ってきた食品は2万ドル相当だった。

 

ビジョンで惹きつけろ『経営の指針』

経営の針路―――世界の転換期で日本企業はどこを目指すか

平野正雄『経営の針路 世界の転換期で日本企業はどこを目指すか』

ダイヤモンド社(2017)

 

 冷戦後の(だいぶ)マクロな経済変化をグローバル・キャピタル・デジタルの3要素から読み取り、それに対する日本企業の現状とこれからが述べられたものである。

 大きく頷けるのは、長期思考を持ち、企業の価値感に従い組織の規律を保っていくべきというところだ。その価値観は、社会的意義を持ったものがのぞましいと思う。もはや企業は、国家とか政治以上に経済や暮らしに影響を与える存在でもある。それならば、社会をよくするための組織で働いていたいものだよね。前年比の売上でどうこう言われるだけの仕事ではうんざりするに決まっている。

 以下メモ。

 

グローバル

 冷戦の終結は、政治制度も経済状況も異なる西側・東側が結びついた巨大市場を作り出した。この巨大市場の成長を促したのは、BRICsに代表されるような、それまで低所得国だった新興国である。はじめはこれら新興国はローコストの生産拠点として発展し、既存の製造業は世界各所で分業されるようになった。

 発展した新興国は、新しい消費市場にもなった。企業のグローバル事業は、商品やサービスの現地化、製品の標準化・業務の集約化、競争優位性を確保するための差異化の実現の3つを戦略とし、それを実現するための組織作りをしていく。具体的には、優位性に事業を絞り込むコンパクト化、企業理念による全従業員の内的動機付け、さらにそのビジョン共有を前提とした組織のフラット化・ネットワーク化が挙げられる

 日本企業は、新興国を消費市場として攻略することに遅れている。自動車や一部家電での成功例に習い、日本市場で成功した商品をそのままの仕様で展開しようとしたことが多かったからだ。日本市場の縮小も競争力の低下に拍車をかけることになった。

 

キャピタル

 金融経済の話である。世界金融資産の伸びは世界GDPを大きく上回り、とんでもなく肥大化していることがわかる。証券化技術やファンド業態の発達がその背景にある。

 企業経営からしたら、保有資産の現金化の手段が増えたことで資金調達が容易になり、ダイナミズムが拡大することに繋がった。さらに買収手法の発達から少額の資本投下で企業買収が可能となり、M&Aが増加した。これには、グローバル化による広域化・分業化だけでなく、資金調達先が銀行から投資家すなわち株主に移行したことで、投資家側の利益になるような売却・買収が行われやすくなったことが影響している。

 こうなると重要なのは、資本市場と向き合って株主価値を創造するための、株主目線での長期的な資源配分策であるコーポレートストラテジー(全社戦略)となる。短期の事業計画とは別のレベルでの政策の追求も必要なのだ。

 さらに、企業価値を高めるにはノウハウや人材、企業文化といったソフトキャピタルを重視することが求められる。そのような無形資産が生むサービスこそが競争力や差異に直結するのである。

 日本企業は、従業員を大事にして長期経営を行うことを良しとする思い込みから、会社が株主の所有物であるということに拒否感を感じる場合が多い。このため分厚い手元資金を積み上げる傾向があるが、これは経営の変革を先送りにしがちという弊害にもなる。また、数字による強い予算管理の傾向もあり、このような数値責任は短期的な業績達成には有効かもしれないが、大胆な組織改編を行いにくくなる上、部門間の競争意識から協働に繋がらない。

 

デジタル

 インターネットからAIまで、デジタル技術の躍進は明らかだ。自動車や金融、エネルギーといった分野は、デジタル革命によってこれまでの産業展開が一気に陳腐化する可能性がある。企業は単にモノを生産して販売するのではなく、何を価値として訴求し回収するかというビジネスモデルの組み立てが重要になった。どのようなサービス経験を顧客にもたらすかが重視され、また顧客が直接それを評価し、評価内容がすぐ伝播するようにもなった。

 日本企業は半導体事業などでかつては世界をリードしていたが、そのポジションは奪われてしまった。これも、古いモデルに固執し、閉鎖的な組織としてしまったことの弊害であるようだ。

 

これから

 戦略思考に基づく経営を実践し、出遅れていた組織改革や人材開発に取り組むことだ。戦略思考は、企業の長期的な存在価値を見極めることから始める。これは、単に存続することを目的とするものとは全く異なる。

 戦略思考があれば、どこに何を投資すべきか明確になるはずだ。この時にハードキャピタルだけでなく、組織の仕組みや人材といったソフトキャピタルを重視することを忘れてはいけない。このソフトキャピタルにのみ、日本の独自性・競争力を担わせることはできる。

 戦略思考の実行には、サラリーマン的ローテーション人事は向いていない。経営者がある程度長期のオーナーシップを発揮することが必要だ。これは各部門の担当者も同様で、より専門性を深めることが組織のフラット化やコンパクト化につながると期待できる。この時、各自の規律となるのは数値目標でなく企業ガバナンスである。

またも良かった『母の記憶に』

母の記憶に (新☆ハヤカワ・SF・シリーズ)

ケン・リュウ『母の記憶に』

早川書房(2017年)

 

 中国生まれ米国育ちの小説家による短編集第2弾。前短編集『紙の動物園』も信じられないほど面白かったが、今回もとんでもなく面白い16編が詰まっている。

 SF・ファンタジーに分類されるケン・リュウの作品の魅力は、様々な場所で言われるように、東洋的な質感、情緒あふれる内容であると思う。考えさせられるより、感じさせられるSFだ。あるいは泣かせるSFだ。近しい文化的背景を持つ日本の読者は特にそうだろう。

 以下、特に気に入った数編を。

 

烏蘇里羆

 冒頭のこの1編で引き込まれることは間違いない。特殊な機械技術(『鋼の錬金術師』のオートメイルみたいなものだ)の発展したパラレルワールドで、日露戦争終結後の満州を舞台に、金属製の義手を持つ日本人(エドワード・エルリックのようなものだ)が驚異的な戦闘力を持つ巨大なヒグマに復讐を果たさんとする物語である。

 虚実入り混じった舞台背景や、『羆嵐』の想起が、雪原で繰り広げられる戦いに具体性を持たせる。スピーディなアクションの表現も素晴らしく、頭の中で映像が流れていくようだ。ぜひ伊藤悠先生に漫画化していただきたい。

 

草を結びて環を銜えん

 1645年の揚州で実際に起こったとされる、清国と南明の戦闘における大虐殺を舞台としている。同じ主題は本書に収録されている『訴訟氏と猿の王』でも扱われており、どちらも歴史の表舞台には出ない市井の英雄を描写する。

 壮絶な環境の中で立ち振る舞う聡明な遊女の姿、またその姿を語り継ぐ付き人の姿には大いに心揺さぶられた。自身の持つ力量の範囲で、迷いながらも成すべきことを成していく様子が、ファンタジックな味付けでより強調され、奇妙な爽快感を伴って心に残る。個人的には本書で最も好き。

 

存在

 大切な親族と離れて暮らすという選択、いつでも連絡を取れるからと少しぞんざいにもなるような関係性について、私たちが明確でないにしろ普遍的に抱える後ろめたさに似た感情を、不可思議なテクノロジーを道具にして鮮やかに浮かび上がらせる。自分自身の状況と重なることも多かったので印象的。

 

ループの中で

 戦争と技術について。遠隔操作のドローンで攻撃をできるようになったとしたら、さらに無人化・機械化が施されたとしたら、戦争状況下で人を殺す行為と精神との分離は果たしてなされるのか、と考えさせられる作品。

 

万味調和 軍神関羽のアメリカでの物語

 ゴールドラッシュのアメリカを舞台に、中国人移民の老人とアメリカ人の少女との交流を、関羽の物語・精神性を交えて描いている。もはやSFでもファンタジーでもないのだけど、関羽の物語が次第に老人の人生に収束していく流れは見事だし、繊細な描写にも引き込まれる。

 

『輸送年報』より「長距離貨物輸送飛行船」

 飛行船が主要な輸送手段の一つとして採用された世界を描く。特段驚くべきことは起きず、中国からアメリカへのある1便への同行を淡々と描く。奇妙な状況ではあるが十分に思い描くことのできる様子が丹念に描かれており、なぜだか心地よい読後感を得られる。これも描写の力だろうか。