人と機械のつきあい方『デジタルアポロ』

デジタルアポロ ―月を目指せ 人と機械の挑戦―

デビット・ミンデル『デジタルアポロ 月を目指せ 人と機械の挑戦』

出版社:東京電機大学出版局

翻訳者:石澤ありあ

原著:DIGITAL APOLLO: Human and Machine in Spaceflight (2008)

 

 自動車のクルーズコントロールって使います?アクセルを踏まなくても設定速度を維持して走らすことのできる機能。私はどうにも物足りないというか、自分の動作との乖離を感じるというか、むずむずしてしまうので使わない。一方で自動運転の波は押し寄せていて、人が運転するのと機械が運転するので安全性はどちらが高いか、あるいは同乗する人の役割とは何かが問われたりする。

 アポロ計画は、「何をどこまで人に任せるか」「機械との協業とは何か」を問い詰めた事例であった。宇宙飛行士とは、積極的に操縦に携わるパイロットなのか、あるいはただの乗客なのか。本書では、技術者とパイロットとが互いの領域に何度も線を引きながらミッションを設計していった様子が語られる。

 航空工学においては、「安定性」と「制御特性」が人と機械を捉える指標となる。安定性が高ければ人が操縦しなくても直線・水平飛行を続けることができるが、そこから外れるためには大きな力を必要とするため、反応性の高さを示す制御特性は損なわれる。パイロットは、制御特性を残し、自らの技術や集中力で飛行を統制することを望んでいた。

 ところが、ロケット打ち上げはあまりに短時間であるため、人が操作する隙は全くなかった。また、人を乗せることで湿気が生まれ機械故障の原因になったり、人がいる以上は必ず地球に帰還させる必要が出てきたりと、どうもデメリットが多く目に付く。アポロ計画では、自動操縦の組み込みや、地上からの操作制御が準備され、宇宙船内で人の操縦を要しない仕組みができていた。もはやパイロットは不要という意見も多かった。

 しかし結果としては、パイロットは生き残った。月に立つというミッションの目的も背景としてあったが、「機械のバックアップ」としての役割を担ったのだ。緊急時のバックアップを機械に担わせようとするより、人の方が重量を節約できたともある。

 結局、アポロ計画の月着陸では、全て自動制御はオフにされ、宇宙飛行士自身が期待制御を担った。これは、予定の着陸地点が岩石だらけで着陸には適さないと目視で初めて判断できることがあったためでもある。こうして人は、立派だが不完全な機械のバックアップとしての役割を得たのだ。

 アポロ計画の事例は様々な教訓をもたらしてくれる。現代では、人工知能など、機械との作業区分に関する課題は多い。そうした協業の際に、人の役割はどこにあるのか、またブラックボックス化した機構をどのようなインターフェイスで人の側に見せるべきなのか。アポロ計画で技術者とパイロットが苦慮し解決してきた問題が、いたるところに転がっているのである。