カレーライス、だあいすき『カレーライスと日本人』

カレーライスと日本人 (講談社学術文庫)

森枝卓士『カレーライスと日本人』

講談社学術文庫(2015年)

 

 私の住む札幌でカレーといえば、やはりスープカレーである。スパイスの効いたさらりとしたスープに盛りだくさんの具を浮かべ、ライスを浸して食べる。元々は薬膳をヒントに札幌で生み出されているものの、東南アジアテイストの装飾をしたり、ラッシーも一緒に出したりして、なぜか異国感が演出されたりする。そうかと思えば天ぷらをトッピングしたりして、なんとも自由な料理である。

 このスープカレー、日本で主流のルーカレーと全く違うのに、カレーとしかいえない感じがするのはよくよく思えば不思議である。スパイスが効いていて辛いからだろうか。ところが本書の冒頭にあるように、マレー式カレーは辛くない。色だって赤や緑など様々だ。何をもってカレーといえるのかを疑問に思った著者は、インド・イギリス・日本のカレーを巡ることになるのであった。

 カレーの発祥はインドであるものの、カレーという呼称はもともとインドにはなく、現地の言語をもとに欧州国が呼び始めたもののようだ。インドにおけるカレーとは、唐辛子やコリアンダーターメリックなど複数のスパイスをすりつぶし調合したマサーラを使った汁気のある食べ物ではないか、ということまでを著者は突き止める。

 ところがインドのカレーには日本のカレーのような特徴は見られない。小麦粉でとろみはつけられていないし、ジャガイモ・ニンジン・タマネギといった具もない。そもそも日本の辞書におけるカレーの定義の多くは「カレー粉を使ったもの」で、カレー粉はイギリスのC&B社が世界で初めて製造販売したのである。

 したがって、日本におけるカレーはイギリスから伝来したのである。イギリスに行って1861年のレシピ本を調べると、小麦粉を加えてとろみをつけるという記載がある。明治のはじめに、この作り方と共に日本にカレー粉が伝わったのだ。こうして日本では西洋料理として扱われたがために、同じく西洋料理であるシチューと徐々に融合しながら、西洋野菜であったジャガイモ・ニンジン・タマネギを入れる料理として独自の発展を遂げたのである。

 カレーは他の西洋料理と異なり、スパイスで肉の匂いを隠し、また価格も安かったため、西洋化し肉食を始めたばかりの日本では受け入れられやすかった。さらに軍隊での食事として供されたことから、大正から明治にかけ、軍隊がえりの人々が家庭でも食べるようになった。これにより、都市部だけでなく地方でも家庭料理としての浸透が広がったとみられる。こうしてカレーは日本人の国民食としての地位を確立したのだった。

 読了後、さっそくカレーが食べたくなる。スープカレーじゃなくてルーカレーだ。札幌の名店「コロンボ」にいそいそと向かったところ、店外に続く長い行列。現在まで連綿と続くカレー人気を改めて思い知らされた。