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鳥につづく道『恐竜学入門』

恐竜学入門―かたち・生態・絶滅

『恐竜学入門 ―かたち・生態・絶滅―』

出版社:東京化学同人

著者:David Fastovsky, David B. Weishampel

監訳:真鍋真

訳者:藤原慎一・松本涼子

原著:DINOSAURS : A Concise Natural History (2nd edition) (2012)

 

 

 『愛しのブロントサウルス』を読んで以来、空前の恐竜ブームである。総論を学びたいと思っていたら、ちょうど今年の初めにこの教科書が訳され出版されていた。大学生向けに、恐竜について、また自然史を研究する手法について記されており、恐竜研究の現在地とそこに至る経緯まで網羅されている。

 あまりにも教科書的な見た目ではあるが、内容は読み物としてもすぐれている。研究の紆余曲折はそれだけでスリリングであるし、平易な、ときにふざけた文体は読み手を飽きさせない。また、John Sibbickによる骨格を中心とした細密なイラストは、理解を助けるだけでなく、それだけを見返したくなるような素晴らしいものだ。

 本書の構成の特徴として、恐竜について学んでいたものが、気付けばいつの間にか鳥類について学んでいる、というような流れがある。どちらも同じものなのだという考えが、ページをめくるにつれごく自然に自分の中に構築されていくのだ。表紙のイラストは日本版独自のもので、シノサウロプテリクスが描かれている。羽毛があるのみならず、その色まで分かっている恐竜だ。かなり鳥っぽいこの絵は、本書で学ぼうとする「恐竜」を非常によく表している。さあ、恐竜が鳥につづく道をたどって行こう。我々が恐竜に囲まれて暮らしていることを認識させられるはずだ。

 

 第1部 過去をたぐり寄せる

 第1部は導入にあてられる。冒頭は化石、中生代の環境について触れられる。プレートテクトニクスについてアメコミ風に表現されるなど、すでに教科書を逸脱している。

 そしてこの本の特徴といえる分岐図の説明。こののちとにかく頻繁に分岐図がでてきて、都度説明される恐竜の分類群ごとに系統樹上のどの位置にあたるのかを意識させられる。この分岐図のおかげで、鳥類というのは本当に恐竜類の一部なんだな…ということがはっきりとわかることになる。

 まずは恐竜に至るまでの分岐図が示される。四肢動物、羊膜動物、双弓類、主竜形類、主竜類、鳥頸類と辿ってきて、最後に翼竜類と分岐してようやく恐竜類の単系統が現れる。恐竜類として分岐する形質の特徴の一つは、直立型の姿勢をとることである。これにより恐竜類は走行性運動に高度に特化した、「とことん陸生の動物」といえる。さらに恐竜類は恥骨の向きの違いなどから、鳥盤類と竜盤類に分けられる。

 ちなみに分岐学上では「爬虫類」の定義は我々が思い描くものとは異なる。共有する形質からは、現生する爬虫類は「カメ」と「鳥を含む双弓類」となる。そうならば恐竜も爬虫類に含むことができそうだ。

 

第2部 鳥盤類

 第2章は鳥盤類の紹介である。鳥盤類の大きな特徴は、恥骨が後ろ向きに伸びていることである。これにより大きな消化器官(あるいは複数の胃)をもつことができ、胴体は円筒状に広がった。もう一つの特徴は、租借をしたと考えられるような頭骨の形だ。顎関節でみると、ハサミのような動きで物を噛み切る竜盤類に対し、鳥盤類の顎関節ではペンチのように頬と歯が噛み合わさる。またくちばしとして働く前歯骨をもち、これらのことから植物を咥えとって咀嚼していたことがうかがえる。ここでは現生のウシなど植物食性哺乳類の頭骨と比較されており、その類似性には驚かされる。

 

  まず紹介されるのは、背側に平行に並んだ特殊な骨を持つ装盾類。ステゴサウリア類とアンキロサウリア類という大きなグループが含まれる。

 ステゴサウリア類の特徴は「皮骨板が棘状ないし板状に発達する」「前肢に対し後肢が著しく長い」ことだ。ステゴサウルスといえば、脳が2つあるといわれていたのを思い出す(「ゴジラVSメカゴジラ」ではこの影響からゴジラの腰に第二の脳があるとされていた)。脳があるのではと思われたステゴサウリア類の骨盤のくぼみは、どうやら神経系に栄養を供給するグリコーゲンの塊があったと見られているそうだ。背中のプレートについても、温度調節のために使われていたとはよく聞くが、防御、ディスプレイなど様々な説があるもののいまだ決定的なものはないそうだ。

 アンキロサウリア類の特徴は「体を覆う骨性のプレートや棘」である。体重は3500㎏にも及ぶとされ、丸くうずくまってしまえば難攻不落である。

 この章の中に、恐竜の行動を脳の形から探ろうとする試みが紹介される。頭骨から脳のエンドキャストを型どりしたり、CTスキャンをしたりすることで脳の三次元構造を調べるのだ。ここからわかる装盾類の特徴は、脳が小さく、嗅球だけは発達していたことである。どうやら彼らはゆったりとした足取りで、野に咲く花の香りを優雅に嗅いでいたに違いない。

 

 次は細長い頭頂骨の棚状突起が後頭部を覆い隠す周飾頭類である。ここにはパキケファロサウリア類とケラトプシア類が含まれる。

 パキケファロサウリア類の特徴は何と言っても「頭蓋天井の高さ」だ。頭をぶつけあって争っていたのではないかとされ、それを支持するような頭骨や首の特徴が見つかっている。一方で良心的兵役拒否者として紹介されるスティギモロクの頭頂には血管が通っており、ぶつけ合うには不適で、ディスプレイのためのものだったのではないかと考えられる。いずれにせよ性選択的な特徴であることは間違いないようだ。

 ケラトプシア類で有名なのは、トリケラトプスに代表されるような、四足歩行性で角とフリルを持った恐竜だ。しかしこれらはいずれも共通形質ではなく、吻骨を持つ、というのが最大の特徴だ。アジアや北米から、他のどの恐竜よりも豊富に化石が見つかるため、非常に多くのことが分かっている。

 

 最後は鳥脚類だ。完全な植物食であるこの仲間は標本数が最も多く多様であり、皮膚の印象化石が残っていたり、全ての成長段階の化石が見つかるなどしている。この章では、頭骨から推定される恐竜の社会性についての解説が面白い。ハドロサウリダエ類のとさかは性選択のために機能したとされ、その仮説が正しいとするための条件をほとんどクリアする。しかし時代を追うごとにディスプレイとしての形状の特殊化は起こらず、むしろ控え目になっていったそうだ。

 

第3部 竜盤類

 第3部は、鳥類を含む竜盤類について。特徴として特に取り上げられているのは、特殊な間接を有すること、手の第Ⅰ指が内側にねじれていること。細かい。

 

 まず紹介されるのは竜脚形類。全長40mにも及ぶ巨大な恐竜を含むグループである。小さい頭、長い首が特徴的だ。

 面白いのは、一度は二足歩行性となった祖先から出発し、首が伸びていくと同時にまたもや二次的に四足歩行性に移行したことだ。同時に植物食性への傾向も強まっていき、裸子植物の繁栄に合わせて竜脚形類の仲間も拡大していったのである。とはいえ鳥盤類のように咀嚼できる噛み合わせでないため、植物を引きちぎっては飲みこみ、共生する細菌に分解してもらっていたようだ。

 首の長さは、水につかって生活していたのではないかという仮説も生んだ。しかし水深6mの位置に肺があれば、その水圧から横隔膜を動かすのは困難であるとして否定されている。柱状の四肢は陸生であったことを強く支持する。とはいえ、その巨体、特に長い首を維持するのは並大抵のことではなかったようだ。

 

 獣脚類の解説には多くのページが割かれている。鳥へと至る仲間であるからだ。全ての獣脚類は、脊椎骨と四肢骨に空洞がある。

 まずは、よだれを垂らしたティラノサウルスを含む、肉食恐竜として特徴的な獣脚類の紹介だ。多くの獣脚類は体サイズに比べ頭が大きく、後方に湾曲したギザギザした歯を持っており、まさに凶暴な恐竜といった印象だ。このような形態は多くの獣脚類で似通っているが、実はそれぞれが独立して進化し獲得した形態、収斂進化の結果であることが分かっている。ところが、見た目の似たそれぞれの種の行動は異なっており、大型化に伴った効率化がこのような形態を生んだと考えられてきた。しかし、2009年、ティラノサウルスをそのまま5分の1に縮小したような恐竜が見つかったことで、この収斂進化の理由は分からなくなってしまった。

 続いては、鳥類の起源についての紹介だ。鳥類を鳥類たらしめる形態の特徴の多くが、獣脚類と共通していることが示されており、本書でここまで分岐学的観点から恐竜を学んできた今となっては、鳥は恐竜であることは明白であると考えざるをえない。羽毛についても、その獲得は決して飛行のためではなく、断熱、またはディスプレイのために発達したのだとされる。断熱のためだったとすると、少なくとも羽毛を持つ恐竜は温血性であるといえる。羽毛は鳥盤類でも見つかっており、もしも羽毛の進化が1度しか起こらなかったとするなら、その起源は鳥盤類と竜盤類の共通祖先までさかのぼれるかもしれない。

 最後は現生鳥類までの過程が示される。多くの形態で共通するものの、アーケオプテリスクと現生鳥類の間にはまだ違いが存在する。進化のシナリオが完全に埋められるには、まだまだ化石の発見が必要だ。

 

第4部 恐竜の内温性、地域固有性、起源と絶滅

 恐竜が温血性だったのか冷血性だったのかという議論の顛末が紹介される。温血性であることを指摘したBakkerらの数々の仮説をはじめとして、近年は様々な技法で恐竜が温血性であったことが示されていく。前者はマクロな視点から、後者はミクロな視点から、魅力的な着想で様々なアプローチがとられてきたたことがわかる。

 

 非鳥類恐竜の進化・繁栄と周辺環境の関係についても述べられる。恐竜は白亜紀に一気に繁栄した。この時期に被子植物の拡大と、咀嚼機能が特殊化した恐竜の繁栄が起こっているのだが、この関係については明らかでないという。咀嚼できない植物食恐竜が減ったわけでもない。この時期の植物の様々な戦略の進化が、恐竜側の多様性につながったとは言えそうだという。

 

 19世紀から始まった古生物学。現在に至るまでの様々な恐竜研究者列伝が語られる章をはさみ、最後は恐竜の起源と絶滅についてまとめられこの教科書は終了する。