今月みたもの(2019年3月)

ボブ・ペルシケッティ、ピーター・ラムジー、ロドニー・ロスマン『スパイダーマン:スパイダーバース』(Spider-Man: Into the Spider-Verse)2018年

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 運命を前に逃げ出すのではなく、何度も立ち上がり立ち向かわなければならない。それは決してひとりきりの戦いではなく、例えば異次元の友達や、家族が支えてくれる。そんな物語をアニメならではのテンポですぱすぱ進ませながらも、繰り返しのギャグはしっかり入るし、小さな願いを叶えようとする敵の悲しい過去もわかるし、出会いと別れと成長も描かれる、とても良い映画でした。メイおばさんがめちゃ強い。

 あと画面がずっとすごい。以下の動画のとおりなんだけど、とにかく観よう。



ジョナサン・デミフィラデルフィア』(Philadelphia)1993年

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 エイズ発症を理由に解雇された弁護士が、法廷でエイズや同性愛の偏見と戦う映画。法廷劇は見所があるし、どんどん病に侵されていくトム・ハンクスの演技は見事。ちょっとドライめに見えるデンゼル・ワシントンとの友情のあり方も良い。ブルース・スプリングスティーンの主題歌も好き。でも重いので観るのは大変でした。

 

スティーヴ・マックイーンそれでも夜は明ける』(12 Years a Slave)2013年

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 自由黒人ながら誘拐され、奴隷としての12年間を過ごしたソロモン・ノーサップの実話。地獄めぐりをしたソロモンただ一人がまたも日常に戻るまでが描かれるので、映画としては、彼以外の何も解決していないと虚しさの残る印象(ソロモン自身はその後奴隷廃止運動を展開した)。死んだ仲間を埋葬する際に歌い上げられるゴスペルが印象的。

 

ウォーレン・ベイティ『レッズ』(Reds)1981年

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 荒い説明をすると、共産党活動に身を投じていく夫婦の愛についての映画。長い。

 

『チャンネルはそのまま!』2019年

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 5夜連続放送してましたので観ました。まっすぐなバカがとても良く演じられていてよかった。面白いです。

渇望と虚しさ『ブッチャーズ・クロッシング』

ブッチャーズ・クロッシング

ジョン・ウィリアムズ『ブッチャーズ・クロッシング

出版社:作品社

訳者:布施由紀子

原著:BUTCHER'S CROSSING (1960年)

 

 1873年アメリカ・カンザス州〜コロラド準州を舞台にした小説。架空の街・ブッチャーズ・クロッシングにやってきた若者・アンドリューズは、「カントリーについて理解を深めたい」といい、バッファロー狩りに帯同する。ロッキー山脈にあるという絶好の狩場を目指す一行。飢えや渇きと戦いながら彼らが経験し得たものとは何か。

 ここでのカントリーとは、未開の自然を指す。これは、人の手に負えない大自然に放り出されたものたちの冒険譚でもある。心情描写はとても少ないものの、密に描かれた状況により、我々は容易にこの冒険を追体験できるだろう。汗で張り付くシャツや砂つぶの心地悪さ、川の流れの圧力と冷たさ、消炎の匂い、硬い毛で覆われたバッファローの皮を剥ぐときの張力、服の隙間に入り込んでくる雪の痛み。我々自身もあたかも極限環境に置かれたようになり、またそのことが「生きていること」の実感となる。

 こうしてダイナミックな「生」を感じた旅を終え、ブッチャーズ・クロッシングに戻ってくると、主人公と同様、驚くほどの空虚さを感じる。「生」の感覚が欠落したかのようだ。私たちは、自分の力の及ばないようなめまぐるしい環境の中で、なんとかもがいているときだけ生を感じることができるのかもしれない。生への渇望と、その虚しさを体感させてくれた一作。

人と機械のつきあい方『デジタルアポロ』

デジタルアポロ ―月を目指せ 人と機械の挑戦―

デビット・ミンデル『デジタルアポロ 月を目指せ 人と機械の挑戦』

出版社:東京電機大学出版局

翻訳者:石澤ありあ

原著:DIGITAL APOLLO: Human and Machine in Spaceflight (2008)

 

 自動車のクルーズコントロールって使います?アクセルを踏まなくても設定速度を維持して走らすことのできる機能。私はどうにも物足りないというか、自分の動作との乖離を感じるというか、むずむずしてしまうので使わない。一方で自動運転の波は押し寄せていて、人が運転するのと機械が運転するので安全性はどちらが高いか、あるいは同乗する人の役割とは何かが問われたりする。

 アポロ計画は、「何をどこまで人に任せるか」「機械との協業とは何か」を問い詰めた事例であった。宇宙飛行士とは、積極的に操縦に携わるパイロットなのか、あるいはただの乗客なのか。本書では、技術者とパイロットとが互いの領域に何度も線を引きながらミッションを設計していった様子が語られる。

 航空工学においては、「安定性」と「制御特性」が人と機械を捉える指標となる。安定性が高ければ人が操縦しなくても直線・水平飛行を続けることができるが、そこから外れるためには大きな力を必要とするため、反応性の高さを示す制御特性は損なわれる。パイロットは、制御特性を残し、自らの技術や集中力で飛行を統制することを望んでいた。

 ところが、ロケット打ち上げはあまりに短時間であるため、人が操作する隙は全くなかった。また、人を乗せることで湿気が生まれ機械故障の原因になったり、人がいる以上は必ず地球に帰還させる必要が出てきたりと、どうもデメリットが多く目に付く。アポロ計画では、自動操縦の組み込みや、地上からの操作制御が準備され、宇宙船内で人の操縦を要しない仕組みができていた。もはやパイロットは不要という意見も多かった。

 しかし結果としては、パイロットは生き残った。月に立つというミッションの目的も背景としてあったが、「機械のバックアップ」としての役割を担ったのだ。緊急時のバックアップを機械に担わせようとするより、人の方が重量を節約できたともある。

 結局、アポロ計画の月着陸では、全て自動制御はオフにされ、宇宙飛行士自身が期待制御を担った。これは、予定の着陸地点が岩石だらけで着陸には適さないと目視で初めて判断できることがあったためでもある。こうして人は、立派だが不完全な機械のバックアップとしての役割を得たのだ。

 アポロ計画の事例は様々な教訓をもたらしてくれる。現代では、人工知能など、機械との作業区分に関する課題は多い。そうした協業の際に、人の役割はどこにあるのか、またブラックボックス化した機構をどのようなインターフェイスで人の側に見せるべきなのか。アポロ計画で技術者とパイロットが苦慮し解決してきた問題が、いたるところに転がっているのである。

今月きいたもの(2019年2月)

James Blake『Assume Form』(2019年)

Assume Form

 ロンドンのシンガー・ソングライターの4枚目。奇妙さや冷たさは作品を重ねるごとに薄れている印象で、今作では肉感的な温かさもある。もろヒップホップな音も増えている。美しい荘厳さを秘めているのは変わらず、それは変わらぬ魅力。これまでの作品よりも、気軽に何度も繰り返し聴くことのできる好盤だと思う。



The National『Boxer Live in Brussels』(2018年)

Boxer (Live In Brussels) [帯解説・歌詞対訳 / 国内盤] (4AD0077CDJP)

 オハイオ州のインディーロックバンド。2007年の名盤『Boxer』の完全再現ライブの音源。バンドでのライブならではの躍動感が溢れ素晴らしい。ホーンもバッチリ入る。それにしてもボーカルのマットの声質の魅力たるや。