今月みたもの(2019年1月)

リドリー・スコットブレードランナー ファイナルカット』(Blade Runner)1982年

ブレードランナー ファイナル・カット(字幕版)

 10年くらい前に初めてみたときは、最後の格闘シーンで寝てしまうということがあった。今回も集中力は全く続かなかったのは否めない。世界観も雰囲気も好みなはずなのにどうして俺は…。

 自分が何者であるかという不安、限られた時間の命で孤独に生きる虚しさみたいな部分がテーマにあるように思われる。じわりとそれらのテーマが胸に広がる。

 それと特撮がすごい。タイレル社社屋の解像度たるや。

 

ドゥニ・ヴィルヌーブ『ブレードランナー 2049』(Blade Runner 2049)2017年

ブレードランナー 2049 (字幕版)

 そして続編。こちらの方が圧倒的に時間が長いものの、とても引き込まれた。前作と同じテーマをしっかりと描きながら、そこに差別というテーマも加えているようだ。また、レプリカントだけでなく、AIにも感情移入してしまう作りになっていて、人の境界を揺さぶられるかもしれない。

 とにかくずっと映像がきれいで、近未来世界の手触りを感じさせてくれる。

 

ドゥニ・ヴィルヌーブ『メッセージ』(Arrivel)2016年

メッセージ (字幕版)

 「あなたの人生の物語」は先に読んでおり、どう映画で表されるのかいささか不安であったが、世界的危機を解消するくだりなど、映画ならではのシーンの追加により、主人公に起こった変化の理解を助けるようになっている。自分にもし同様の変化が生じたらどうするのかを考えさせられる(どうもこうもできないとう変化でもあるが)。

 異星人とのファーストコンタクトのシミュレーション映画としてもすばらしい。そして映像がきれい。

 

ドゥニ・ヴィルヌーブ『ボーダーライン』(Sicario)2015年

ボーダーライン(字幕版)

 ベニチオ・デル・トロの得体の知れなさで引っ張っていかれる映画。シウダー・ファレス市に入ってからの一連のシーンは緊張感にあふれとても良かった。言わずもがな、これも映像がきれい。

 

デヴィッド・リーチデッドプール2』(Deadpool 2)2018年

デッドプール2 (字幕版)

 今作もむちゃくちゃやってて楽しかった。この映画自体なんだったんだよと思わすにはいられないオチとか、好き放題やっていました。

苦難を乗り越えて『鳥たちの旅』

鳥たちの旅―渡り鳥の衛星追跡 (NHKブックス)

樋口広芳『鳥たちの旅 渡り鳥の衛星追跡』

NHK出版(2005年)

 

 小型計測機器を使い動物の移動や行動を計測するバイオロギング研究。本書はその最初期にあたる研究を紹介する内容と言えそうだ。

 鳥の中には、年中同じ場所にとどまる「留鳥」と、季節的に移動する「渡り鳥」がいる。渡り鳥は、春に渡ってきて日本で繁殖し秋に南方へ向かうツバメなどの「夏鳥」、秋に北から渡ってきて越冬するハクチョウなどの「冬鳥」、春と秋の渡の途中に立ち寄るシギなどの「旅鳥」に分けられる。この渡り鳥がどのような経路で旅をするのかを、小型の衛星発信機を取り付けることで明らかにしていく。

 鹿児島県出水で越冬するマナヅルの例を紹介しよう。3月ごろに日本を立ったマナヅルの一部は、九州の西海岸沿いを経て朝鮮半島へ向かい、韓国・北朝鮮の国境の非武装地帯に滞在、さらに北朝鮮東岸沿いに北上し、ロシアと中国との国境の三江平原に達する。彼らはここで夏の繁殖期を過ごすこととなる。渡に要する日数は17〜42日、総移動距離は1800〜2600kmに及んだ。大移動である。このような経路の確認は、衛星発信機により始めてわかったことである。

 なぜ鳥は渡りをするのか。それは食物を確保するためである。昆虫の数が季節的に変化するのが想像できるように、場所・時期ごとで好適な餌環境は変わる。このため、リスクを負いながらも長大な移動をしているのである。

 そんな渡りを追うのは容易ではない。衛星発信機を着けるのだって困難が伴い、鳥ごとに様々な方法が試みられている。先ほどのマナヅルをロシア側で確保する際には、広大な湿原をヘリコプタで周り、狙いを定めて飛び降りて抱きついて捉えるという、ジャッキー・チェンばりの身体能力が研究者には求められる。ようやく発信機を取り付けられたとしても、思わぬところで外れてしまったり、電波をなかなか拾えなかったり、高い衛星使用料を取られたりと、やはり苦難は続く。

 そんな苦労をしてまでなぜ渡りを追うのか。渡りの経路を知り、さらに保全に活用するという目的もあるのだ。渡り鳥はひとっ飛びで目的地に達するわけではない。その途中でいくつもの中継地に立ち寄り、休憩を挟みながら長い旅をするのである。こうした鳥を保全しようとすると、夏・冬に長期間滞在する場所の環境だけでなく、旅の中継地の環境も考慮しなくてはならないとわかるだろう。マナヅルでは皮肉なことに朝鮮半島の非武装地帯が重要な中継地となっているように、国を超えた保全対策が必要となるのである。

 発信機はさらに小型化し、また情報精度も上がっている。渡り鳥の生活を次々に明らかにし、地球規模での保全を考えることにつながれば、私たちは鳥に囲まれた豊かな世界を維持し続けられるだろう。

電脳じゃなくてもハックできる『つくられる偽りの記憶』

つくられる偽りの記憶:あなたの思い出は本物か? (DOJIN選書)

越智啓太『つくられる偽りの記憶 あなたの思い出は本物か?』

化学同人(2014年)

 

 私が私であることの証明を記憶に求めるならば、本書が示す内容は恐ろしいと思えるだろう。

 人の記憶は、あとからいくらでも歪められる。記憶は時系列に積み上がっていくものではなく、あとから入ってきた情報とも共存し、混同してしまうことがある。これをソースモニタリングエラーという。例えば人は、顔そのものは無意識に記憶するが、どこで見たかという記憶は忘れやすい。そのため、事件の目撃証言などでは、「どこかで見た顔」が、事件に関する質問をされたり情報を取得することで「事件現場で見た顔」にすり替えられることがままあるという。頭の中で想像することで、記憶が変容するのだ。おもしろいことに、記憶に対する自信と、その内容の正確さには全く相関がない。記憶は私たちの経験の拠り所ではないのである。

 同じような仕組みで、実際には体験していない記憶(フォールスメモリー)を形成することができる。「ショッピングモールでの迷子」を子供の頃に経験したはずだとして何度も想起させると、実際には経験していないのにも関わらず、次第に詳細が思い出される場合がある。これは、様々な記憶の断片が、想起しようとする「迷子」のエピソードの下で組み合わせられてしまうことで、偽りの記憶が作られてしまうためである。写真を見せるなど、具体的なイメージを持たせるとフォールスメモリーは形成されやすい。

 「生まれた瞬間の記憶」もこのフォールスメモリーで説明できうるという。人には幼児期健忘という現象があり、3歳までの出来事は記憶されないとされている。体験を記憶するとは、「いつ・どこで・どのように」からなるエピソード記憶を形成するということだ。面白いことにこれは言語の発達とも関係し、例えば「誕生日」という単語を習得しない限り誕生日の記憶は形成されないという。このため、幼児期の記憶は本来存在しないはずなのだ。出生直後の赤ちゃんの視力もごく低いものであり、生まれた瞬間の記憶というのは、親などから聞いた話を無意識に繋いで形成している可能性が高いのだ。

 よく催眠術によって幼児期の記憶を導き出す、というものがある。催眠とは、対象を暗示にかかりやすい状態に誘導する技術だ。退行催眠をかけると子供時代に戻る、という言い方をするが、実際は子供のように振る舞うようになるというのが正しいそうだ。暗示によって求められる子供時代を演じ、それに関する記憶をつなぎ合わせることが起こるのである。「前世の記憶」も同様で、前世の存在を信じるような環境では、以前に読んだり聞いたりした内容を使い、周囲の期待に応えるようにフォールスメモリーを形成していると考えられる。

 「エイリアンによる誘拐」も同様にフォールスメモリーで説明できるかもしれない。奇妙な不快感や悪夢を説明するための仮説として「エイリアン」を何度も想起することにより、次第にそれが正しいという思い込みが強くなる。こうなると、自分に都合のいい裏付けに注目してしまう「確証バイアス」も働き、フォールスメモリーが形成されてしまいうる。映画『未知との遭遇』のヒット後にエイリアンとの遭遇情報が急増し、また以降は映画に出てきたのと同様にグレイ型の宇宙人ばかりが報告されるようになったという例からは、フォールスメモリー形成に対する大衆文化の影響度合いを推し量ることができる。

 私たちのアイデンティティは記憶によって成り立つのかもしれない。しかし、その記憶自体は必ずしも事実に則したものではなく、こうありたいというバイアスがかかったものであるのがほとんどだとわかる。記憶との付き合い方を考えるスマートな本。

今月きいたもの(2018年11月)

QUEEN『Rock Montreal』(2007年)

Rock Montreal

 1981年のライブを収めたアルバム。次々と曲が繰り出され、本当にすごいライブバンドだったんだなと。アルバムではあまりピンとこなかった後期のポップなハードロック調の曲も突然輝きを見せる。

 

QUEEN『A Night At The Opera』(1975年)

オペラ座の夜

 「You're My Best Friend」「Love of My Life」「Bohemian Rhapsody」と超名曲揃いのモンスターアルバム。そしてスルメアルバム。僕が好きなのは「'39」。

 あとこれも。

 

 何はともあれ、クイーンばかり聴いていたのでした。